登山にはいろいろな楽しみがあります。
- 色とりどりの高山植物
- 苔や滝などを楽しみながらの山歩き
- 山頂に到着した時の達成感
- 山頂からの壮大な景色
他にも登山の楽しみは様々で、例を挙げるとキリがありません。
そんな中でも私は息を切らしながらキツい急登を登るのが好きです。
大抵の人はキツいのは嫌だと思うかもしれませんので、この記事では急登の魅力を紹介していきます。
急登の魅力
①人が少なく静かな山歩きを楽しめる
急な登りはキツいため避ける人が多いです。実際、大人数のツアーなどでも参加者の体力を考慮して、可能な限り楽なルートを選ぶことも少なくないです。
多くの登山客で賑わう山も魅力的ですが、せっかく山に登るのならば一人の時間を楽しみたい時もあるでしょう。
そういう場合は急登で有名な山に登ると、ほぼ100%静かな登山を楽しむことができます。
②自分との闘いで成長を実感できる
無理は禁物ですが、キツい山に登り続けると自然と体力がつきます。
これまではコースタイム6時間ぐらいが体力の限界だと思っていたけど、徐々に6時間→7時間→8時間...というように限界を突破できるようになります。
また、以前登ってキツかった山も体力がつくと思ったより楽に登ることができるようになり、自分の成長を実感できるのが最高に気持ちいいです。
③心地良い疲労感、達成感を味わえる
苦労した分だけ、山頂に到着した際の達成感は増加します。手軽に登れる山も悪くはないですが、ちょっと味気ない感覚さえ覚えます。
料理にとって「空腹は最高のスパイス」と言われるのと同じように、登山にとって「疲労感は最高のフィルター」。山頂で同じ景色を見るにしても、キツい登りを経験した後の方が感慨深いものです。
また、下山した後に足がガクガクになっている感覚や翌日の筋肉痛によって登山した実感を噛みしめる人もいることでしょう。
④登山の選択肢が増加する
これがシンプルかつ最大の魅力です。
例えば、コースタイム10時間の山に登るときの計画について考えてみましょう。
コースタイム6時間ぐらいが限界だと考えている場合には、自然と1泊2日の計画になるでしょう。
ただ、1泊2日の計画となると山小屋(テント場)の予約が必要となりますし、行程が長くなるだけ悪天候に当たる確率は高くなります。何よりも(一部の人を除いて)そんなに頻繁に泊まりで山に行くことができないですよね。
それが、その山を日帰りで行くことができると計画のハードルは大きく低下しますし、(天候や他の予定なども考慮すると)登山する頻度も高くすることができます。つまり、よりチャレンジしやすくなる、というわけです
三大急登
日本人は「三大〇〇」と名付けるのが好きですよね。
諸説ありますが、急登界隈にも「三大急登」と称される急登があります。
北アルプス三大急登
初期の三大急登は北アルプスが舞台。つまり、北アルプス三大急登はもっとも伝統のある急登といっても過言ではありません。
- 烏帽子岳 ブナ立尾根
- 燕岳 合戦尾根
- 鹿島槍ヶ岳 赤岩尾根
裏銀座ルートのはじまりであるブナ立尾根と表銀座ルートのはじまりである合戦尾根は昔から揃って挙げられています。
残りの1本は赤岩尾根(鹿島槍)、クリヤ谷(笠ヶ岳)、早月尾根(剱岳)などの説がありますが、昔から文献のよる記載が多い赤岩尾根を挙げさせていただきました。
日本三大急登
長い間、急登の中心は北アルプスでしたが、最近では対象を全国に拡大した「日本三大急登」も認知されつつあります。
- 谷川岳 西黒尾根
- 甲斐駒ヶ岳 黒戸尾根
- 烏帽子岳 ブナ立尾根
「日本三大急登」に関しては、思いのほか諸説はなく、この3つが一般的とされているようです。
西黒尾根は「日本三大急登」を名乗るのに斜度や標高差も足りない気がしますが、死者数世界一を誇り、「死の山」の異名を持つ谷川岳の尾根として選出されたと考えれば納得できる気もします。
筆者が選ぶ三大急登
独断と偏見で三大急登を選んでみました。
- 甲斐駒ヶ岳 黒戸尾根
- 剱岳 早月尾根
- 飯豊山 ダイグラ尾根
黒戸尾根と早月尾根は文句なしで三大急登に入ります。この2つは「格が違う」と登ってみて感じました。
あと1つは悩みましたが、私はダイグラ尾根を推します。斜度や標高差はアルプスに譲るものの、飯豊山の山頂までダイレクトに続く長大な尾根の品格や途中に山小屋のない過酷さは魅力的です。
急登の多い山域
日本アルプス
急登といえばやはりアルプスは外せない!
標高3000m級の山が連なる日本アルプスはどこを見ても急登。平均斜度はそれほど...という山でも標高差があって登りごたえがある山は無数にあります。
後述の「急登ランキング100」の中で北アルプスは24個、中央アルプスは6個、南アルプスは12個もランクインしています。
日高山脈
あまり知られていないですが、日高山脈は急登の宝庫です。
日高山脈の最高峰で日本百名山にも選定されている幌尻岳や、アイヌ語で「クマが転げ落ちるほど急峻な山」という意味のカムイエクウチカウシ山、北海道で最もキツい山とも言われるコイカクシュサツナイ岳など、魅力的な山はたくさんあります。
鋭い三角形をし、平均斜度が15°を軽く超える山が集まる日高の地形は、海洋プレートが隆起して山が造られた後、氷河によって削られたことによってできたといわれています。
奥多摩
奥多摩といえば関東からアクセスしやすくて手頃な山域という印象もありますが、実はそこそこ急な山が多いんです。
平均斜度24.2°を誇る本仁田山(大休場尾根)、標高差と斜度のバランスが良い鷹ノ巣山(稲村岩尾根)、奥多摩三山/300名山にも選定される三頭山(ヌカザス尾根)は奥多摩三大急登とも称されています。
奥多摩は体力をつけるためのトレーニングとして適した山域だといえそうです。
急登ランキング
私がバイブルとしている「山と渓谷 2012年8月号」の急登特集では参考として急登ランキングが掲載されています。
これは各ルートの急登と言われる部分の標高差と沿面距離、平均斜度を偏差値化して、その合計を大きい順に並べたものです。
順位 | 山名 | ルート名 | 標高差 [m] | 平均斜度 [°] |
1位 | 富士山 | 御殿場ルート | 2320 | 14.6 |
2位 | 剱岳 | 早月尾根 | 2240 | 21.2 |
3位 | 甲斐駒ヶ岳 | 黒戸尾根 | 2200 | 15.4 |
4位 | 笊ヶ岳 | 雨畑~布引山 | 2120 | 14.1 |
5位 | 空木岳 | 池山尾根 | 2010 | 12.0 |
6位 | 農鳥岳 | 奈良田~大門沢下降点 | 2010 | 12.8 |
7位 | 唐松岳 | 祖母谷温泉~唐松岳頂上山荘 | 1840 | 8.6 |
8位 | 北岳 | 池山吊尾根 | 1950 | 14.1 |
9位 | 笠ヶ岳 | クリヤ谷 | 1920 | 14.5 |
10位 | 清水岳 | 百貫の大下り・清水尾根 | 1810 | 10.3 |
1位から順に富士山、剱岳、甲斐駒ヶ岳...そうそうたる山が並んでいますね。
本誌には100位まで掲載されていますので、興味のある方はバックナンバーをチェックしてみてください。
この表によると、1位は富士山(御殿場ルート)ということですが、「富士山が名急登か?」と聞かれると、素直に首を縦に振ることが難しい。なんだかしっくりこないのです。
では、名急登の条件とはどのようなものなのでしょうか?
名急登の条件
①傾斜が急
「急登」というぐらいなんだから、傾斜が急であることは必須の条件。
具体的な目安としては、平均斜度が12~13°ぐらいは欲しいですね。
②標高差が大きい
いくら傾斜が急だとしても、すぐに終わってしまっては物足りません。
長く苦しい登りを経験させてくれて、はじめて「名急登」といえます。
具体的な目安としては、累積標高差が1500mぐらいは欲しいですね。
③名峰へと至る
苦しい思いをして登った山の頂からの展望がイマイチだったら苦労が報われた感じがしません。
また、山頂からの景色が良くても登った山があまり有名な山でなければ友人からの共感も得られません。
そういった意味で日本百名山をはじめとした名峰に至ることも名急登の条件と言えます。
④地図上でのラインが美しい(一気に登る)
地図を見ながら妄想を膨らませてニヤニヤするのも登山の楽しみの一つ。
そういったことを考えると、尾根に沿って引かれた明瞭で美しいルートが望ましいと言えます。
いくら斜度や標高差が大きくても、つづら折りのルートを名急登と呼ぶのには抵抗があります。
また、頻繁に尾根を乗り換えたりするのも美しいとは言えず、山頂付近までズドンと1本の尾根が続いているのが理想的です。
⑤古典的ルート
名急登には「古くから修行に使われていた道」などのストーリー性も重要な要素です。
道路が整備されて標高が高いところから登ることができるようになった近年において、あえて古典的なルートから登るという選択をできる山が望ましいですね。
例えば、甲斐駒ヶ岳では標高2030mの北沢峠から登ることもできますが、あえて標高770mの麓から登るのが粋というやつです。
急登を登る際の心得
早朝にスタートする
急登に挑むとなると、どうしても行動時間が長くなるもの。
長丁場の行程で焦ることなく歩くためには、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。
また、夏場は暑さによって疲労が蓄積することも多いので、比較的涼しい早朝にどれだけ標高を稼ぐことができるかが重要になってきます。
荷物はできるだけ軽くする
当然ですが荷物が重いとそれだけ身体にかかる負担は重くなってきます。
「軽量化が最大のチューニング」と言われるように、カラカラの雑巾を絞るようにして軽量化を図りましょう。
また、軽量化というと荷物ばかりが注目されがちですが、体重を軽量化することも大切。
体重が1kg重いということは、単純に考えると1kg分の余分な荷物を背負っているとも言えます。
筋肉を落としてまで無理に減量する必要はありませんが、無駄な肉を減らして引き締まった身体を作りましょう(自戒も込めて)。
登りは小股でペースを守る
長時間の行程となって焦る気持ちも理解できますが、登山はマラソンに例えられることもあるようにペースを守ることが大切。
筋肉の酷使を防ぐために小股で歩くことや、疲労が蓄積しないようこまめに休憩を取ることが効果的です。
下りも小股で脚への負担を小さくする
急登では登ることばかりに注目されがちですが、本当にキツいのは下りです。
登りは体力があれば何とかなりますが、下りは脚の筋肉がボロボロに破壊される感覚さえあります(それが快感でもある)。
急な下りでは、重力に任せて大股で下るのではなく、小股で歩いたり、手で岩をつかんだりして、脚の筋肉に負担をかけないようにすることが大切。
ストックも用いて脚にかかる負担を分散するのも効果的です。
おすすめルート
コースタイム別にオススメのルートを紹介していきます。
焦らず徐々にステップアップしていきましょう。
コースタイム10時間未満
たくさんありますが、個人的に「キツかった」と印象に残っている山をピックアップしていきます。
縦走の途中に通って、縦走した場合のコース全体では10時間を超えることもありますがご容赦ください。
白毛門 白毛門登山口から(CT:6時間)
白毛門は谷川岳の東側に位置する山で、谷川岳東壁の荒々しい岩稜がよく見える展望地として知られています。
標高680mの登山口から1720mの白毛門山頂まで一気に1000m以上も登る必要があり、その後も笠ヶ岳・朝日岳まで容赦ない登りが続きます(朝日岳まで往復の場合はCT10時間程度)。
三ノ峰 上小池駐車場から鳩ヶ湯新道(CT:6時間40分)
三ノ峰は福井県最高峰で標高は2095m。
別山や白山へ至る縦走路の途中の山という認識が一般的でそんなに有名な山ではないですが、三ノ峰までの登りでもかなりハードでした。景色も素晴らしいので三ノ峰までのピストンでも普通に楽しめると思います。
上小池駐車場から別山まで往復する場合はCT10時間30分、白山まで往復する場合はCT18時間超えとなるので、体力と相談しつつどこで引き返すか判断しましょう。
朝日岳 寸又峡温泉から(CT:7時間)
朝日岳という名前の山は全国にたくさんありますが、こちらは南アルプス深南部の朝日岳です。
激しい急登の連続で一気に標高差1300mを登り切る山ですが、眺望はほとんどなく、登山客もほとんどいない超地味な山です。
美しい形をしているから見るにはいいんですが、登るのはキツいだけです。なので別に全然好きな山というではありません。
ただ、自宅から近く、適度にキツいのでトレーニングのためによく訪れます。トレーニングに使用する山を見つけて定期的に登ると自分の成長を体感できるのでオススメです。
七面山 表参道(CT:8時間)
七面山は南アルプスの東側に位置する山で標高は1989m。
道の状態もよく、適度に登山客もいるので、あまり体力に自信はないけど急登に挑戦してみたいという方にオススメできる山のひとつです。
コースタイム10〜12時間
意外とこれぐらいの長さの山がありませんでした。個人的にはCT12時間ぐらいまでだったら比較的気軽にチャレンジしようという気分になりますね。
平ヶ岳 鷹ノ巣ルート(CT:11時間20分)
日帰り最難関の百名山との呼び声高い平ヶ岳。
めちゃくちゃ急ってわけではないですが、ひたすらに長く、途中に山小屋がないので、日帰りで登り切る体力がある者のみが挑戦を許される山です。
アクセスも悪く登山自体もキツいですが、山自体は素晴らしいので、苦しい思いをして登る価値は十分にあると断言できます。
地蔵岳 御座石温泉から(CT:11時間25分)
御座石温泉から鳳凰三山の一つである地蔵岳までピストンするというルート。
地蔵岳は標高2780mと南アルプスの中ではそれほど高くはないですが、やはりアルプスはアルプス。麓から登ろうと思うとそれなりにキツいです。
南アルプスには南アルプス特有の苦しさがあるので、甲斐駒ヶ岳黒戸尾根に挑戦したいならその前に地蔵岳で練習しておくのもいいでしょう。
また、鳳凰三山を全て回ろうと思うと14時間程度となり、さらなる体力が必要です。
コースタイム12〜14時間
この辺りまで来るとかなりキツいものがあります。体調を万全に整え、「よし登るぞっ!」と気合いを入れて登らないといけません。
餓鬼岳 白沢ルート(CT:12時間30分)
餓鬼岳は北アルプス燕岳の北側に位置する標高2647mの山。
ルートが長いのはもちろん、道の状態があまり良くない箇所やめちゃくちゃ急なところもあったのでコースタイム以上の疲労感を感じました。
人気の北アルプスでアクセスしやすいにも関わらずあまり人がいないのは、類まれなるキツさが影響していることでしょう。
空木岳 池山尾根(CT:13時間)
日本アルプスの中でやや存在感が薄い中央アルプスですが侮ってはいけません。
標高差は2000mを超え、急登ランキングでも堂々の5位にランクインしています。
ちなみにロープウェイで簡単に森林限界を突破できる木曽駒ヶ岳にも麓から登るルートがあり、そちらも玄人的な魅力があります。
茶臼岳 畑薙大吊橋から(CT:13時間5分)
茶臼岳は南アルプス南部に位置する標高2604mの山で、上河内岳や聖岳、光岳などへの縦走路の途中にもあたります。
南アルプス南部は大井川が作った急峻な渓谷となっており、登山口の標高が低いうえに傾斜も急です。
そのため標高以上のキツさがありますが、アクセスが悪いのも相まって人が少ないのが魅力的な山域です。
茶臼岳までのピストンでも十分キツいですが、体力や時間に余裕があれば光岳方面に少し進んだところにある仁田岳まで行くことをオススメします。
薬師岳 折立から(CT:13時間20分)
薬師岳は北アルプスにある標高2906mの山。
折立は北アルプス縦走の起点にもなりますが、薬師岳までピストンする人も結構います。
体力が必要なことは言うまでもありませんが、山頂からの景色は格別!オススメの山のひとつです。
コースタイム14時間以上
急登界隈で目標とすべき山がずらっと並びます。
どの山も文句なしに素晴らしかったんですが、「もう一度登りたいか?」と聞かれたら「キツいからしばらくは嫌だ」と即答することでしょう。
①甲斐駒ヶ岳 黒戸尾根(CT:14時間40分)
急登界隈で有名な黒戸尾根。説明は不要でしょう。
途中にある七丈小屋でテント泊して登ったこと、日帰りで登ったことの両方がありますが、日帰り用の軽い装備で登る方が圧倒的に楽に感じました。
②笠ヶ岳 笠新道(CT:15時間)
こちらもキツい山として有名ですね。
キツい山には健脚が集うので、普通に順調なペースで歩いていてもバンバン追い抜かれることに衝撃を受けた山です。
笠新道を激しい急坂を登り切った後の杓子平から広がる景色は圧巻で、苦労して登る甲斐は十分にあります。
③笊ヶ岳 老平から(CT:15時間20分)
笊ヶ岳(ざるがたけ)は知る人ぞ知るキツい山です。個人的な印象ですが、笊ヶ岳を知っている人は急登の素質があるような気がします。
ルートがキツいのはもちろん、割と危険な箇所もあるので難易度は非常に高い部類です。
樹林に覆われた眺望のない急登の連続ですが、山頂からは南アルプス南部の山々を一望できる素晴らしい景色が広がっています。
④剱岳 早月尾根(CT:15時間50分)
早月尾根は標高差、平均斜度ともに目を見張るものがあり、急登界の王様と言っても過言ではありません。
カタログスペックを見ると気が引けてしまいそうですが、覚悟していたほどキツくはなかったです。前述の甲斐駒ヶ岳(黒戸尾根)あたりを歩き切る体力があれば臆することはなく挑戦していいでしょう。
剱岳といえばカニの横ばいなど危険な印象がありますが、早月尾根には危険箇所はそんなにありません。脳筋な私にとっては純粋に体力勝負って感じの早月尾根の方が魅力的なルートです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
こんなに趣味全開で気持ちの悪い記事を最後まで読んでもらって本当にありがとうございます。
99%の人には理解されないと思いますが、1%の人にだけでも急登の魅力が伝われば嬉しいです。
今後も色々なキツい山に登っていきたいので、オススメのルートがあれば教えてください!
それではまたっ!
(参考)
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